第1回インコントロ 講演会・昼食会

日時:2016年5月17日(火)   11:30~14:00

会場:リーガロイヤルホテル 2F 「桐の間」

講演:沢村 亙(さわむら わたる)さん
   朝日新聞東京本社編成局長補佐(元ヨーロッパ総局長)

演題:「欧州の危機に学ぶ ~イタリアなど南欧の教訓から~」

主催:大阪日伊協会

協賛:アサヒビール(株)

   ネスレネスプレッソ(株)

 

当協会の運営体制変更後、初の主催イベントとなった「第1回インコントロ 昼食会&講演会」は、総会に引き続き、リーガロイヤルホテル2F「桐の間」で開かれました。

まず、新たに会長に就任した朝日新聞大阪本社代表で常務取締役の後藤尚雄氏があいさつし、引き続き、朝日新聞元ヨーロッパ総局長の沢村 亙氏が講演しました。

欧州で併せて10年、特派員を務めました。われながら貴重な経験だと思うのは、ロンドンとパリ。島国のイギリスと大陸のフランス、即ちアングロサクソンとラテンの両方の文化圏で暮らしたこと。それぞれ価値観も欧州観も異なります。もうひとつは生活者であったこと。下の子はロンドンで生まれ、パリの幼稚園に通いました。子供同士のつながりから得られる情報は、その社会を知る上でたいへん貴重です。そういった生活感のあるやわらかいお話をしたいと思います。

余談ですが、パリではマクドナルドを「マクド」と呼ぶのも子供からの情報でした。米国や英国では東京と同じように「マック」です。これには大阪生まれの妻が「マクドやて」とたいそう喜びました。路上駐車、エスカレーターの右立ち、お店で値切ること、食べ物へのこだわり等々。私たちは「パリは大阪だね」と話していました。

欧州のおもしろさは多様性です。英国人はものすごく時間をかけて大激論をして法律やルールを決めるのですが、いったん決めれば粛々と従う。対してフランス人は決めるときはぱっと決めるのですが、うまくいかないことがわかるとさっさとルールを変えたり廃止したりしてしまう。オランダ人はベルギー人を「怠け者」とからかえば、ベルギー人はオランダ人を「ケチ」呼ばわりするのを聞きました。決していがみ合うのではなく、そうした違いをみな面白がったりしています。

欧州連合(EU)には28カ国が加盟しています。EUの公用語は24つの言語。英語やフランス語が偉いというわけではありません。すべての公用語が他の公用語に訳されるのでEUには通訳だけで何千人もいます。

言語や文化だけではありません。フランスは人口の1割近くがイスラム教徒。つい最近選ばれたロンドン市長もパキスタン移民家庭出身のイスラム教徒。ロンドンでは英国生まれの白人は45%。過半数が英国以外で生まれた人か白人以外の人種なのです。みんなが異なるバックグラウンドを持ちながら、同じ欧州人としての一体感もつくりあげているのが欧州です。

さて、ギリシャやイタリアなど南ヨーロッパは、かつて世界の中心でした。ギリシャ文明、ローマ帝国、そして大航海時代はスペインやポルトガルが栄えました。北欧は辺境でドイツは深い森でした。産業革命を機に英国やオランダが世界の中心に躍り出る。その後の動きに南欧はやや乗り遅れた観がありますが、むしろ南欧の価値観は生活を楽しむことに主眼を置いています。スローライフ、スローフード。人生は楽しむもの。家族の絆をとても大事にします。

さて、この欧州が近年、危機に見舞われています。

最初が財政危機です。2009年、ギリシャの政権交代で巨額の財政赤字を粉飾していたことが分かりました。信用危機が起こり、国債の利率が跳ね上がります。さらに金融危機が起きました。ユーロという強い通貨が可能にしていた経済バブルがはじけ、それほど体力がないにもかかわらず巨額を貸しこんできた金融機関が破綻します。こうした財政・金融危機が、ギリシャからスペイン、アイルランド、ポルトガル、そしてイタリアにも波及しました。

これは実体経済がいいか悪いかという以上に、グローバル化したマーケットが「次の餌食は何か」を探し求める現象といえました。イタリアは政府債務が対GDP比で130%とEUではギリシャに次いで高かった…。といっても日本よりはるかに少ないですが…過去30年以上、ほとんど経済成長がない、構造改革も進んでいないという問題に目をつけられて危機に陥りました。

経済の危機は政治の危機へと転化します。南欧を中心とする危機によってユーロが安くなるほどドイツの輸出産業には有利になる。それならもっと自分たちを支援しろという声が南欧で起きる。一方、ドイツなど危機を免れた北の国では、なぜ自分たちの税金で放漫財政を続けてきた南の国を支援しなければならないのか、という不満が強まる。

共通通貨ユーロへの不信やEUへの不満、他国や他の民族に対する不寛容なムードも強まり、反EUや反移民を唱えるポピュリズム政党(大衆迎合主義の政党)が各国で力を伸ばします。

ひとつの国の中でも、豊かな地域とそうでない地域の格差が大きいところでは、「自分たちの税金が彼らのために使われるのはいやだ」と分離独立を求める動きが出てきます。これが政治危機です。

イタリアには、以前から北部同盟という分離傾向の強い地域政党がありましたが、経済危機をきっかけに、「五つ星運動」という既成政治を厳しく批判する政党も誕生しました。

2014年に就任したレンツィ首相はイタリア民主党の41歳。フィレンツェ市長を務めた人です。非常に弁が立ち、直言タイプ。左派でありながら、雇用制度などさまざまな改革に手をつけました。財政規律を重視するドイツのメルケル首相とは政策の方向性は異なりますが、いまの欧州ではメルケルさんと並んで「顔の見えるリーダー」としての地位を固めつつあります。

経済危機、政治危機に続くのが社会危機です。中でも深刻なのが若者の仕事がないこと。25歳以下の若年失業率はスペインで45%、イタリアで39%。一時はスペインでは50%、イタリアでも40%を超えました。世界的に見ても高い数字です。これだけ仕事がみつからない若者が大勢いてなぜ暴動が起きないのか。先進国ということもありますが、家族の支えがあること。あと数字には表れないちょっとしたアルバイトのような仕事があるからです。スペインなどでは2008年ごろまで不動産バブルでした。いたるところでビルや住宅、インフラの工事があり、多くの中高生が学校に通うのをやめて、いい給料が得られる建築業や土木業で働きました。そしてバブル崩壊。大切な時期に知識や技術、キャリアを積まないでいた若者が仕事を失って放り出されたのです。

とはいっても仕事のない若者を支える親や祖父母たちも限界に近づいています。スペインでは政府の危機対応に抗議する高齢者デモも起こりました。

仕事を求めて海外に出て行く若者も増えました。東欧では、医者や看護師などの資格を持つ若者が北欧やドイツをめざしました。同じEU加盟国であれば自国で得た資格が有効だからです。そのかわり有能な人材が多く流出する事態になりました。

政府や自治体の財政が厳しくなって病院や図書館が閉鎖したり、社会保障が縮小したりする状況は欧州の多くの国に広がりました。英国では電気代を節約するため深夜に街灯を消す町も出たほどです。

最近、凄惨なテロ事件が欧州で起きています。テロに手を染める若者の多くは欧州で生まれ育った移民の2世や3世たちです。これももとをただせば、経済危機がもたらした社会危機のひとつの形といえるかもしれません。

そんな欧州ですが、私はさほど悲観しているわけではありません。

たとえばイタリアと日本をみてみましょう。低成長、既得権益、少子化、進まない国際化など、多くの共通点があります。しかし、モノづくりの伝統、株主の利益よりも従業員の福祉を重んじる企業統治などの点でも共通しています。

イタリアでも優秀な若者がドイツや英国、そして米国へと飛び出しています。でも海外でスキルを得た若者がいつか将来、イタリアに戻る可能性だって十分にあります。実際、世界中に移民を送り出したアイルランドでは景気が好転すると、移民の子孫たちが戻るという現象が起きています。イタリアでも、米国から戻ってきた若者の起業が増えているという話を聞きます。個々の国で若年失業率が高くても、グローバル化した世界で生きるすべを見つけさえすれば、それほど悲観すべきことではないかもしれません。

いま、日本の若者が内向きだといわれます。まだ日本に余裕があるので国内にとどまっていてもやっていけるからかもしれません。でも未来はどうでしょうか。グローバル時代、それぞれの国が国境を堅く閉ざしてちぢこまっているわけにはもはやいかないように思えます。それなら、いっそ開かれた国や社会にして人、モノ、情報の出入りを盛んにする。それぞれの文化や価値観を尊重しつつ、あえて多様性を楽しむ……そんな割り切り方について欧州やイタリアに学ぶものは多いように思います。

ご静聴ありがとうございました。

盛況に終わった沢村氏の講演ののち、在大阪イタリア総領事のマルコ・ロンバルディ氏が参加して昼食会が始まり、総領事の乾杯の発声で、会員の皆様の歓談がはじまりました。

 

最後に、これまでの会の運営に貢献された和田省一前会長と兼田正廣専務理事らに、後藤新会長から感謝の意をこめてイタリアワインが贈られました。

 

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